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タロウは終始無言だった。私は、タロウの幼なじみと言われる人物が、タロウの隣に立った時、まるで絵画でも見ているかの様な衝撃を受けた。それと同時に、どこか悲しくも感じたが、どうしてなのかわからなかった。
「えっと、あのう。どうかしましたか?」
「あ! いや、えっと」
思わず見入っていると、その渦中の女の子が困った顔で尋ねてきた。
「な、何でもありましぇん!」
噛んでしまった。いたたまれなくて、私は巨体を揺らして帰ろうとすると、担任教師に柔道部の見学に誘われた。とにかく逃げたくなり、柔道部の見学に参加することとなった。
振り返ることも出来ず、私は担任教師の後に続いた。
「ほれ。ここが我が柔道部だ」
「えーっと。あれ?」
柔道部、と書かれた看板はあるのに、そこにはひとっこ一人いない。
「今日は全学年、二時間授業ですよね? これから来るんですか?」
「実はな、柔道部は俺が今、学校に申請している段階で、厳密には柔道同好会だ」
大変なことになった。面倒なこと、間違いなし。
「あの、先生。私、急にお腹が」
「手始めに二人で道場の手入れをするぞ。雑巾がけだ!」
道場とは名ばかりで、畳もなければ、ただの空き教室そのものだった。
「毎日の掃除は、心を磨く術だ! その体格をもっと仕上げるためにも、毎日やろう! 無論、顧問の俺も一緒だ!」
絵に描いた様な熱血教師に、悪寒がした。
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