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タロウが、顔をしわくちゃにして笑った。どこか懐かしい面影のある笑顔。あの時も、涙ぐんだままのタロウは私を見て、この笑顔だった。
私の中の何かが、小さく弾けた。
「うふふ。変わらないんだね、タト君は」
豚饅頭に磨きのかかった私と違い、タロウの笑顔は昔と変わらないままだ。
「ハナコもよく見れば変わってないよ」
「え?」
そう言うと、タロウは私のほっぺを掴み伸ばした。
「うん。この弾力のあるお餅ほっぺ。間違いなくハナコだ」
「いひゃいれす。やめれくらしゃい」
林間学校でのたった三日間の思い出が、一気に蘇る。言葉の通じなかった私たちは、自由時間は二人で行動し、何かあると、タロウは私のほっぺを伸ばしては嬉しそうに笑っていた。
「何か、ハナコって凄く安心出来るんだよ」
私は頬を擦りながら、タロウの話を聞いた。
「ハナコって同じ日本人の輪には入ろうとしなかったのに、俺に声を掛けてさ」
「それは多分……」
いじめを受けていた恐怖心と、自分の自信の無さから閉じ籠っていたから、とは言えなかった。閉じ籠っているのは、今だって変わらないから。
「ううん。何でもない」
同情したわけではない。ただ、放って置けなかった。右左のわからぬ世界で、一生懸命に自分の存在を証明しようとする姿に、自分の出来ないことをしている彼に、自分の理想を重ねたからだ。
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