第一話

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「何でもないわけないでしょう?」  苦しそうだ、とタロウは言って私の手を取った。 「帰ろう」  こんな展開は少女漫画でも中々お目にかかることはない。それを私は体現していて、これは死亡フラグでも立っているのか、と思うほどに、自分の世界では異様な光景だった。それでも、タロウの手が温かくて、少し骨張って大きくて。離れることが出来なかった。それは、心も包む様に優しくて、私は、過去の自分が抱えたものを今も引き摺り、その延長線上で生きていることを、途切れ途切れでも伝えた。  駅に着くまで、タロウは話に合わせてゆっくり歩き、全部を聞いてくれた。空はもう、月が輝き始めていた。 「あ、ありがとう」 「こちらこそ、話してくれてありがとう」 「ごめんなさい。私なんかが隣を歩いて」  タロウは溜め息を吐いた。 「あのさ、ハナコ。俺がハナコと一緒にいたいから一緒にいるんだよ。気付け」 「それは同情? それとも、再会した初めての友達と交流を深めるため?」  タロウは私の髪をぐしゃぐしゃにした。 「な、何を」 「同情なんかしないよ。同情するもなにも、ハナコは俺の、あの、えっと」 「何? もじもじして気持ち悪いなあ」  私の一言に、タロウは真剣に私を見つめた。     
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