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「何でもないわけないでしょう?」
苦しそうだ、とタロウは言って私の手を取った。
「帰ろう」
こんな展開は少女漫画でも中々お目にかかることはない。それを私は体現していて、これは死亡フラグでも立っているのか、と思うほどに、自分の世界では異様な光景だった。それでも、タロウの手が温かくて、少し骨張って大きくて。離れることが出来なかった。それは、心も包む様に優しくて、私は、過去の自分が抱えたものを今も引き摺り、その延長線上で生きていることを、途切れ途切れでも伝えた。
駅に着くまで、タロウは話に合わせてゆっくり歩き、全部を聞いてくれた。空はもう、月が輝き始めていた。
「あ、ありがとう」
「こちらこそ、話してくれてありがとう」
「ごめんなさい。私なんかが隣を歩いて」
タロウは溜め息を吐いた。
「あのさ、ハナコ。俺がハナコと一緒にいたいから一緒にいるんだよ。気付け」
「それは同情? それとも、再会した初めての友達と交流を深めるため?」
タロウは私の髪をぐしゃぐしゃにした。
「な、何を」
「同情なんかしないよ。同情するもなにも、ハナコは俺の、あの、えっと」
「何? もじもじして気持ち悪いなあ」
私の一言に、タロウは真剣に私を見つめた。
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