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母の言葉を遮り、父は言った。
「ただいまって何度も言ってたのにさ、誰も気付かないもんな」
母と私はまた笑った。母は父を慰めながら、スーツの上着と鞄を受け取った。
両親、特に父は、一人っ子の一人娘である私に甘い。さらには、夫婦の関係も甘い。
「はい、あなた。お帰りのハグとチューは?」
「はいはい。ただいま」
こんなやり取りを、毎日見せ付けられている。恥ずかしさと気まずさにいつも戸惑う。
二人とも、十八歳で結婚。授かり婚だったらしい。そこから二人は仕事も家庭も全力で支え合って来たのだ。
「ちょっと。娘がいることをお忘れなく」
「ハナコ。ちょっとこっち」
父が私を手招きした。近付くと父は、母と私を抱き締めた。
「これで文句なし」
「お父さん。臭い」
私の一言に、父は撃沈した。最近、私の洗濯物は自分で洗濯をするようにしている。思春期だからか、父の臭いが移るかも、と少しの嫌悪感を感じているからだ。
「ハナコ」
「何? お母さん」
「友達出来るといいね」
母はいつも陰ながら、背中を押してくれる。放任しているわけではなく、私をか弱いだけの娘として向き合うのではなく、一人の人間として向き合っているのだ。
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