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「いないよ。勝手についてくるんだ」
「まあまあ。照れるな。お前相手なら勝ち目ないし」
「何それ」
ヨウタという男の子がタロウという男の子に耳打ちをしたが、その会話は、隣席の私には丸聞こえだった。
「それにしたって本当に何とも思わないの? あんなに目がまん丸で唇がぽてっとして、肌白くて可愛くてさ、しかも性格も男女共に好かれているときた。ついでに言えば、あれはDカップはあるぞ」
「まあ性格は世話好きではあるけどな」
一通り会話を終えると、タロウという男の子は、鞄を机の横のフックに掛けた。その鞄を見て、私は驚いた。
「あ……」
声にならない声で、ブレザーの胸ポケットを漁った。私のクリームパンの様な手は、胸ポケットに詰まりながらも何とそれを取り出した。
「なん、で」
私の、人並みの大きさで出た声に、ヨウタという男の子が反応した。
「え? 何?」
ヨウタは、明らかに怪訝そうな顔をしていた。私は、しまった、と思わず顔を逸らしたが、私の腕を引っ張る力に引き戻されてしまった。
「それ、何で?」
タロウという男の子は真っ直ぐにこちらを見ていた。その目は、瞳は。いつかの、あの男の子の持つ色と同じだった。
「タロウ。この人さ、渾名が豚饅頭らしいぞ」
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