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ヨウタという男の子のこそこそ声は、しっかりと聞こえていた。心機一転、学校を変えたところで、人々の着眼点には変わりがない、ということだろう。
タロウという男の子は、その助言など聞こえなかったかの様に私に詰め寄った。
「これ。今は日本で手に入るようになったけど、前はそうじゃなかった」
そう言うと、タロウという男の子は、自身の鞄に付いたそれを見せるように持ち上げた。
「元々はお守りの一種なんだ。持ちやすい様に、俺が母さんに頼んでキーホルダーにしてもらった」
彼の持つそれと私の持つそれは、全く同じ物だった。
「もしかしてさ、昔、林間学校で」
「あ、いや、えと、あの」
詰め寄られて顔が近く、更には小さな息遣いも大きく聞こえる距離に戸惑った。
「おーい。ホームルーム始めるぞー」
タイミング良く、担任教師が教室に入って来た。
「ん? おい、山野タロウ! 席に戻れ」
担任教師の言葉に、タロウという男の子は渋々着席した。
「よし。まず、改めて入学おめでとう。俺はこのクラスの……」
私は黒板と担任教師に集中していた、はずだったのだが。
「おーい。山野タロウ。お前の首は左向きなのかー? 前を見ろ」
じっとりとした視線が感じられる。ただの自惚れで勘違いならば良かったのに。
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