5人が本棚に入れています
本棚に追加
「山野タロウ! 前だ、前を向け! 学年首席合格者だからって調子乗るなー。その杭は俺が打つぞー」
教室中がざわついた。中には、王子と呼び見つめる者もいた。
「先生。俺、寝違えたみたいで、こっち向いてる方が楽なんです。話はちゃんと聞いてます」
そんな嘘が通用するわけがない。幼稚園児でさえ、見破るだろう。
「なんだ。そうだったのか。すまんな。酷かったら言え。保健室で湿布貼ってもらえ」
「あ、はい。ならそうします。けど一人だと歩くの怖いから、付き添いに一人いいですか?」
「そうだな。俺が行けばいいが、配るプリントが多くてな。入学前の宿題提出も見なければならん。よし、折角だ。左隣の、沖川ハナコ! 付き添ってやれ」
「え、わ、私ですか?」
担任教師は頷いた。
「クラスメイトとの交流に繋がるぞ。それにお前は次席だったからな。いいコンビだ」
「コンビって」
「それに体格も、他の男子よりも良いしな」
教室中が笑いに包まれた。
「何故笑う。俺は誉めているんだ。そうだ。俺は柔道部の顧問なんだが、入らないか?」
「え、あの」
担任教師がさらりと私を尊重してくれたこと、部活動に勧誘されたこと。二重の驚きで困り果てていると、隣席から不機嫌そうな声が聞こえた。
「先生。もうそろそろ」
最初のコメントを投稿しよう!