綺羅星の最期

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若者はふふと優しく笑って 「ちがうのだ、 大殿は5年も前にみまかったよ 私は、寿王だよ」 「え⁈ 寿王?若さま…」 綺羅星は、 若者の顔がその父に生き写しなのに驚いた。 七十になってから生まれた寿王を 大殿はこの上なく大切にして 跡継ぎに決めていたが、 こうして元服した姿は 若い頃の大殿にそっくりなのだった。 「何年振りだろう…綺羅星 お前に最後に会ったのは 私がまだ元服前ではなかったか… 会いたかった! 良く覚えていて寄ってくれたね」 寿王は再び綺羅星を 自分の本当の母のように愛しがった。 後ろでは 下人や端下女があきれたように見ている。 「…とんだ綺羅星もあったもんだ」 「かき抱いたりして… お館さまに虱がうつるよ…」 そう、囁きあっている。 寿王は構わず 綺羅星の手を取って屋敷に招き入れる。 「さあ、入って積もる話をゆっくり話そう ところで、お前まだ遊女なの?」 「ほほ、綺羅星は 死ぬまで流れ遊女でござりまするよ 御所望とあらば、いくらでもふざけまする」 青白く濁った綺羅星の瞳は潤って 不思議な光をたたえた。  寿王丸(ジュオウマル)。 今はこの幼名は使っていないが 綺羅星にとってはこの若殿は、 いつまでたっても カムロ髪の少年「寿王丸」にちがいなかった。 若殿は下人たちに命じて 綺羅星のために対の屋(たいのや)に、 床と食事の準備をさせた。 美しい北の方も、 老いさらばえた遊女の成れの果てに初めは驚いたが、 すぐ打ち解けた。 その晩は食事をして休んだ。 元来、丈夫な綺羅星は だいぶ回復したように元気にふるまったが、 実は体中が痛くて起きるのがやっとだったが 晩には対の屋に寿王と北の方が来て酒を飲んだ。 「綺羅星は、亡くなった父上 大殿のお気に入りで、 来れば、一月ほども屋敷に居たな お方様がご機嫌を損ねてたいへんだったがな。 なあ、綺羅星、 おまえに初めて会ったのは 私がこの屋敷に引き取られた年の春で、 私はまだ5つでしたよ」 「そうでした、そうでした、 大殿の御前で、私が舞ったり歌ったりするのを 若様は珍しそうに見ていましたっけ その可愛らしかったこと」 寿王は大殿の妾の子供で、 母親が亡くなって屋敷に引き取られたのだが 子のできなかった北の方にうとまれて つらく当たられ寂しい日々を送っていた。 なぜだか、たまにやってくる綺羅星を 懐き母のように慕った。 綺羅星は綺羅星で、 生んですぐ貰い子に出した子が死んだので さびしげな寿王が気にかかってならず なにかと励まし可愛がった。 寿王は綺羅星が屋敷を去る時はいつも 「我も一緒に連れて行け」と泣いたものだった。
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