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その晩中、息苦しさと寒気に震えながら
「今登っているこの坂が死出の坂かしら
蛇の生殺しの様で苦しいけど
たれぞ、1番愛の深かった男が
迎えに来てくれるのだから」
と古菰の上にうずくまって
ただ息だけ懸命にして耐えている。
少し寝たのか、目覚めると、
自分はまだ生きているようだ。
未明。薄眼を開けた細い視界に
堂の扉がゆっくりと開くのが分かった。
薄明るい道の先は左右に曲がりくねっているのだが、
そのもっと先に人影が現れた。
それは肩の長さで切りそろえた
かむろ髪の若者だった。
アレがお迎えなのかしら…
「わたくしは淡路の綺羅星でございます
お見苦しい姿ですが
おつかえする心は
少しも変わりがございません」
すらすらと言葉が出た。
不思議に高い澄んだ、若い声に戻っていた。
若者は歩きながらだんだん近づいてきた。
微笑んでいる。
郡司屋敷の若様かとも思ったが違う。
丸い、少し離れた目で、
閉じても笑っているような口角の口元が
あの若侍のようでもあるが…いや、違う。
「あなたは、どこぞの殿でしょう?」
近づく程に若者は若返ってゆくようだった。
そしてついには綺羅星の目の前に来ると、
それは、5、6歳の男の子だった。
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