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女のように、抱かれたい。
あの楔で、貫かれたい。
誘ったのは、もちろん自分だ。
必ずブレーキをかけようとする覚に迫って煽って、理性を打ち砕いた。
乱暴に足を開かれて、胸が高鳴る。
一気に貫かれた瞬間、このための生まれてきたと確信した。
それからはもう、互いに歯止めが利かなくなった。
覚なしでは、覚に抱かれていなくては、自分が、自分でないと思った。
それなのに。
覚は出て行った。
一言の断りもなく、ふらりと、まるで死期を悟った猫のように。
ぞくりと、背筋に寒気が走る。
「まさか、まさか・・・。覚は・・・」
がくがくと芝生を握り込んだ指を振るわせると、骨張った手が額に触れた。
「落ち着きなさい、俊一」
祖父の、深い声に呼び戻される。
「覚は、学びに出ただけだ」
「・・・学び?」
ぼんやりと見上げる俊一の頬を、固い指がそっと通り過ぎた。
「覚は、必ず戻ってくる。だから、今は、行かせてやりなさい」
祖父の言葉がうまく理解できない。
目を見開いたままの俊一に、噛んで含めるように説明を始めた。
「夕子の通夜の時に、覚と一晩かけて話し合って決めたことだ。惣一郎が手を打つ前に、ここを出るべきだと」
いきなり、父の名前が出てきたことに混乱する。
「芳恵も無事出産して、憲二の成長もだいたい目処が付いて、夕子の葬儀も終えた。さすがの惣一郎もそろそろこちらに戻ってくるだろう」
現在真神家の当主である父の惣一郎は、与党で重要な位置についているために多忙で、継母の出産にも立ち会わなかった。
当時、発症していなかった家政婦の峰岸夕子と芳恵の実家が出産の準備を整え、祖父の秘書達や覚もそれに加わっていた。
父は、生後三ヶ月を過ぎようとしている憲二の顔を未だに見たことがない。
いや、見ようともしなかった。
都心とこの真神の家は多少離れているが、俊一のように努力をすれば戻って来れないことはない。
それをあえてしないところに、父の、意図があった。
憲二は、決して真神家において重要な子どもではないと。
そもそも、父は母の妊娠がわかった頃からこちらに顔を出さなくなった。なので安産祈願から始まって、初宮参りにすら参加しない冷徹さに、芳恵の親族達は内心憤りを隠せないようだった。
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