いつの間にか夜が明けて。

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「どうして・・・。お母様に」 「光子の後継が、この先遺せなくなるかもしれないからだよ」 「・・・!」  顔を上げると、灰色にけぶった緑の瞳がじっと見つめていた。 「覚を、愛しているのだろう」  唇が、動かない。 「覚しか、駄目だろう?」  祖父は、知っているのだ。 「・・・いつから・・・」  声を絞り出すと、少し困ったように眉を寄せた。 「そうさな・・・。いつだったか・・・」  ぽんぽんぽん、と、頭を手の平で軽く叩かれる。 「昔は、惣一郎のように真神を繋げることしか考えられなかったが・・・。もうそろそろいいのではないかと思うようになった」  どこか、遠くを見つめる祖父の瞳。 「もう、十分だろう。先祖も、まさかここまで続くとは思わなかったのではないか・・・とな」  少し前まで絶対的な当主だったはずの彼の身体から、少しずつ何かがこぼれ落ちていく。 「私に残されている時間は、実のところあまりない。その前に、出来る限りのことをしておきたい。・・・すまない、俊一」 「出来る限りのこと・・・」 「・・・あれは、そんなことは一言も頼まなかったが・・・な」  寂しそうな笑みに、峰岸夕子を思い出す。  一部からは女狐とそしられながらも、祖父に付き添っていた女性。  都内で贅沢三昧の生活をしている祖母よりも、二人の姿は自然に見えた。  控えめで、たおやかで、芯の強い女性だった。  死の床ですら毅然とした態度を崩さなかったと、臨終に立ち会った芳恵は泣いた。 「覚を守りたい。芳恵と子供たちも守りたい。私の望みはそれだけだ」  しかし、それすらこのままでは難しいのだと、噛んで含めるように言われた。  十五歳の自分たちは無力だ。  大人達の思惑で、簡単に壊されてしまう。 「お前も、容易く壊されない男におなり」  静かな、静かな声。 「永遠に、共にいたいなら、強くなれ」  手を強く握られて、祖父の想いを知る。 「いつか、必ず覚は帰ってくる。だから・・・」
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