16人が本棚に入れています
本棚に追加
「どうして・・・。お母様に」
「光子の後継が、この先遺せなくなるかもしれないからだよ」
「・・・!」
顔を上げると、灰色にけぶった緑の瞳がじっと見つめていた。
「覚を、愛しているのだろう」
唇が、動かない。
「覚しか、駄目だろう?」
祖父は、知っているのだ。
「・・・いつから・・・」
声を絞り出すと、少し困ったように眉を寄せた。
「そうさな・・・。いつだったか・・・」
ぽんぽんぽん、と、頭を手の平で軽く叩かれる。
「昔は、惣一郎のように真神を繋げることしか考えられなかったが・・・。もうそろそろいいのではないかと思うようになった」
どこか、遠くを見つめる祖父の瞳。
「もう、十分だろう。先祖も、まさかここまで続くとは思わなかったのではないか・・・とな」
少し前まで絶対的な当主だったはずの彼の身体から、少しずつ何かがこぼれ落ちていく。
「私に残されている時間は、実のところあまりない。その前に、出来る限りのことをしておきたい。・・・すまない、俊一」
「出来る限りのこと・・・」
「・・・あれは、そんなことは一言も頼まなかったが・・・な」
寂しそうな笑みに、峰岸夕子を思い出す。
一部からは女狐とそしられながらも、祖父に付き添っていた女性。
都内で贅沢三昧の生活をしている祖母よりも、二人の姿は自然に見えた。
控えめで、たおやかで、芯の強い女性だった。
死の床ですら毅然とした態度を崩さなかったと、臨終に立ち会った芳恵は泣いた。
「覚を守りたい。芳恵と子供たちも守りたい。私の望みはそれだけだ」
しかし、それすらこのままでは難しいのだと、噛んで含めるように言われた。
十五歳の自分たちは無力だ。
大人達の思惑で、簡単に壊されてしまう。
「お前も、容易く壊されない男におなり」
静かな、静かな声。
「永遠に、共にいたいなら、強くなれ」
手を強く握られて、祖父の想いを知る。
「いつか、必ず覚は帰ってくる。だから・・・」
最初のコメントを投稿しよう!