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人は誰しもが自分の切り札を持っている。
それは手札として手の中に収め、その効果も人それぞれ違う。
『誠実』というカードはいい。重要な商談でも謝罪会見でも真摯に望むのが良い。
『温厚』や『洞察』『努力』『幸運』などもよいカードだ。どれか1つでも持っていれば、この荒波のような世界でも自力で生きていけるだろう。
ただ、このようなパワーカードだけを繰り返し引けるほど人生は甘くない。
僕は自分の手札を広げてみた。
『悪才』『悪漢』『悪手』『懲悪』『悪運』『悪寒』…『悪女!?』
ちょっと待て。僕は男だ。どうしてこんな手札が混じっている。
というより、そもそもどうして悪の付くカードしか手元にないのだろう。
引きつった顔で自分の手札を眺めていたら、隣からため息が聞こえて来た。
目をやると気の弱そうな眼鏡の女性が、浮かない顔で自分の手札を眺めているのだ。
「どうしたんだい?」
そう声をかけると、女性は浮かなそうに自分の手札を見せてくれた。
『憂鬱』『近視』『博愛』『不運』『凡庸』『鈍間』『無友』
なるほど。僕のようにテーマに沿ってはいないが、博愛以外使いづらそうなカードばかりだ。
僕のカードを見せると、その女性は羨ましそうに言った。
「いいなぁ…強そうなカードが何枚もある」
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