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靴を履き替えて、先に出ていこうとする壮ちゃんのあとを追う。
「ねぇ壮ちゃん。走っているの、あれ野球部?」
「たぶんな」
「ねぇ壮ちゃん。今日は購買のカツサンド買えた?」
「それがさ、ラス1だったんだよ。だから友達と分けた」
校舎と校庭のあいだを校門に向かって通る道を並んで歩く。桜の木が植えられていて、ここは春になれば桜が咲き乱れる。
次の桜は、一緒に見ることができないと思う。どんな気持ちで桜を見るだろうか。あと何度こうして並んで帰るのだろうか。終わりに近づくカウントダウンばかりが心を支配していく。
今日みたいに一緒に帰る日は、真っ直ぐ家に帰りたくない。もちろん、毎回その願いが叶うことは無いのだけれど、そっと胸の前で祈ってしまう。
「なんか腹減ったなぁ」
ほら来た。待っていました。
「わたしも。なんか食べて帰ろうよ」
「愛生(あき)は、なにが食べたい?」
「団子」
「団子」
壮ちゃんはわたしの口調に合わせたあと、いじわるな笑顔を向けてくる。
「ちょっと、分かっているなら聞かないでよ、壮ちゃん」
「コトブキ屋の団子も、あと少しで食べられなくなるしなぁ」
じゃあ、明日も食べに来ようよ。明後日も、これから先ずっと。わたしと一緒に来ようよ。そう唇からこぼれそうになる言葉を飲み込む。
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