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コトブキ屋とは、帰り道にある和菓子店。店内で食べることができ、近所の子供がお小遣いで買えるような駄菓子コーナーもある。そして、1本80円のお団子を食べるのが子供のころから変わらない楽しみだった。
「いらっしゃい」
「おばちゃん、団子まだある?」
「あるよ。壮ちゃんはみたらし、愛生ちゃんはくるみね」
お団子は人気商品なので、運が悪いとその日の分が売り切れてしまったりするのだ。
「ありがと。あと、あんこ1本追加して欲しいな」
おばちゃんにそう告げると、壮ちゃんは一番奥のテーブルへ。わたしも続いて向かい合って座った。
「あんこ、半分ずつ食うべ」
「うん」
串に4個付いている団子。時々、3本目を半分する。いつの間にか壮ちゃんがそうするようになった。思えば、いまの彼女とつき合うようになってからだと思う。
セルフで飲める緑茶をふたつ、テーブルへ持っていく。壮ちゃんは「ありがとう」と言って長い指で湯飲みを持ち、冷ましながら口をつけた。
その手を、小さい頃は何気なく掴んでいた。柔らかかった手が、強くて男らしくなるにつれて、簡単に触れなくなって。ちょっと触れただけで胸が高鳴り、段々と自分の気持ちを認めなくてはいけなかった。
認めたら、会いたくて、喜ばせたくなって。でも、幼なじみで妹みたいな位置はわたしを臆病にしたんだ。思っているだけで、いい。想いは、胸に仕舞った。
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