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今日までずっと、かわいい妹以上になれなかった。年下の、近所の幼なじみでかわいい妹……のような存在。それ以上でもそれ以下でもない。
壮ちゃんが取った一番上のお団子、二個目を串ごと口に入れる。間接キス。間接の、わたしのファーストキス。小さい頃から、壮ちゃんだけだった。甘いあんこと、柔らかいお団子、壮ちゃんの優しさ。全部に泣きたくなる。お団子がぼやけて見えたから、必死に瞬きをした。こんなところで泣いちゃいけない。
「荷物が多くなるのも困るから、置いていくものと持っていくものと、選別も難しいんだけどさ。俺たぶん全部持っていきたくなるタイプ」
「なんか分かる気がするけど、部屋が埋まっちゃいそうだよね」
「全部思い出があるし、片付け中に見ると思いを馳せちゃって進まないわけ。愛生に貰ったカップとか、現役で使っているから持っていくし」
「彼女、嫌がらないの? 変えればいいのに。アニメキャラのカップだし」
「まだ使えるんだし買う必要無いよ。そんなことを嫌がるヤツじゃないし。お前が心配することじゃないの」
置いていけばいいのに。でも、持っていくって言われて嬉しい。嬉しいけれど、寂しい。
「ここ、付いてんぞ」
壮ちゃんの親指が、わたしの唇についたあんこをそっと拭った。心臓が跳ね上がる。
「変わんねーな。愛生は昔から」
顔が熱くなるのを感じる。
そうだね。昔から変わらない。食べカスを口につけちゃうのも、それを見て壮ちゃんが笑うのも。クシャっとなる笑顔がわたしの呼吸を止めるのも。
「な、夏休みとか帰ってくるんでしょ?」
言いながら、顔を隠すようにして湯飲みのお茶を飲んだ。
「そうだな。夏休みとか年末年始とかかな。そのときは連絡するよ」
「わたしも色々忙しいんだからね。壮ちゃんが帰ってきたときに彼氏が出来ていて、デートの最中かもしれないし」
「はは。だったら邪魔しないよ」
壮ちゃんの優しい笑顔は、お団子より甘い。
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