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ずっと同じじゃいられないの。一緒にじゃれあって笑っているだけではいられないの。大人になっていくことに逆らえない。壮ちゃんが誰かに恋することも、止められない。その誰かに自分は選ばれなかったことを知っても、目を閉じて受け入れることしかできなかった。
だって、どうしようもない。伝えられることのない、わたしの想い。あと何回、こうして壮ちゃんと笑っていられるだろう。
「帰るか」
「うん」
お皿を片付け、おばちゃんにお礼を言ってコトブキ屋をあとにした。
まもなく暗くなる空は、ギリギリのオレンジ色だった。前を歩く壮ちゃんの背中も夕陽に照らされオレンジ色。この時間が一番好きだった。一緒に帰っている道すがら、後ろから壮ちゃんの背中を追いかける。小さい頃から、この位置も距離も変わらなかったね。
ふと、壮ちゃんが振り向いた。
「愛生は、将来の夢は? やりたいことや、なりたいもの、ある?」
「え? うーん……まだ、よく分からないけど」
こういうことを話すときの壮ちゃんは、知らないひとみたい。少年じゃなくなって、ずっと先を歩いている。その背中を追いかけるわたしは、壮ちゃんにどう見えているのかな。
目の前のことだけでいっぱいになっている自分にとっては、将来のことなど、想像もつかない。けれど。
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