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「壮ちゃんみたいに、なりたいな」
「俺?」
壮ちゃんは目を丸くした。
「バスケが好きで、プレイヤーとして生きたいけれど、技術的にプロにはなれない。でも携わりたい。だから、勉強しに行く。そう自分で自分を理解できるって、すごいと思う」
言い終わると、壮ちゃんは照れた笑顔で頭を掻いた。
「……あらためてそう言われるとなんか、恥ずかしいんだけど」
「そんな風に、わたしもがんばりたい」
素直にそう思うのだ。壮ちゃんみたいになりたい。わたしの伝えられない想いは、そう言うだけで精一杯。
「愛生は、ちゃんとひとのことを見ているのな」
褒められちゃった。嬉しい。誰でもいいわけじゃないよ。壮ちゃんだから、見ているの。壮ちゃんのことだから、分かりたいの。
同じ歳で、生まれたかったな。そして幼なじみじゃなければ良かった。バイト先で出会って、壮ちゃんの彼女になりたかった。
ぎゅっと目を閉じて、涙を我慢するのが癖になったよ。
「大丈夫だよ。愛生は、ちゃんとやれるよ」
クシャッと笑って、わたしの頭をガシガシと撫でてからまた前を歩いた。ちゃんとやれるのかな。
壮ちゃんがいなくなっても、わたしは、大丈夫なのかな。ああ、やっぱり。わたしは。
「壮ちゃん、わ、わたしっ」
駆け寄ろうとしたそのときだった。凹凸の無い地面に靴が引っかかる。なぜ。体勢を立て直そうと思ったが遅かった。上半身だけが前に進もうとしてバランスを崩す。顔を守ろうとして反射的に両手を前に出した。
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