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「あ、うわ!」
「愛生!」
衝撃と痛みが体を走り抜ける。手のひらと両膝を地面に盛大に打ち付けてしまった。
「い、痛いよ~」
制服のスカートから出た両膝が、赤くなり少しだけ血が滲んでいた。深い傷ではないようだけれど、とにかく痛い。転ぶなんて、恥ずかしい。
「膝、擦りむいた……」
「大丈夫かよ。ほら」
壮ちゃんが、こちらへ背中を向けてしゃがみ込んだ。
「え、いいよ。大丈夫だよ」
「いいから、もうすぐお前の家だし、無理すんな。」
歩けないほどの怪我じゃない。分かっているけれど、優しさに甘えたくて、肩に手をかける。軽々とわたしを背負って立ち上がる強さにドキリとした。
歩く振動が伝わってくる。おんぶされて、いま壮ちゃんの目の高さと同じくらい。こんなに高いんだ。
「子供のころ、よくこうやっておんぶしてやったよなー」
「そうだねー。もう最後だから味わった方がいいよ」
「なにを味わうんだよ。あ、重さ? そうだな~重くなったよ。成長を感じる」
「壮ちゃんのバカ」
壮ちゃんの背中は広くて温かくて、いい匂いがする。泣きたくなるような温もりと、懐かしさを心に灯すのだ。腕を回した肩も、体を支える腕も、わたしのものじゃないけれど、いまだけ。独り占めしたい。
いつもより近い距離で、ポツポツと話をしながら、わたしの家の前で降ろされた。
「帰ったら消毒しろよ。バイ菌入ると困るし」
「うん。ありがとう」
「じゃあね。また」
「ああ。明日な」
手を振って、壮ちゃんが歩き出す。
また明日。あと何回言えるだろう。数えたら1回減ってしまいそうで、できない。
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