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そういってNは僕が先ほど眺めていたPCを叩いた。
「……お前、ボランティアなんかやってんのか」
「髪切ってんだよ。ホームレスのおいちゃん達の。そうしないとここにも来れねーじゃん」
Nは再びカニの真似をする。
「もうさ、風呂入ってねーからくっせーの。俺らが切ってから風呂行くからさ。だいたいシラミいるしよ」
鼻をつまみながらおどけて見せるNに、不快感を感じるが、それがNに対するものなのか、自分に対するものなのか、僕には分からなかった。
「……そうか、お前、偉いな」
「偉くねーよ。岡田サンこえ-んだよ!」
新しいボランティアを募集するんだ、とパソコンに向かったNを残して、僕はハローワークを後にした。
何だろうか、この感情は。侮蔑?いや違う。羨望?そうじゃない。
「クソ野郎……!」
呻くように声を絞り出す。これは分かる。自分に対する怒りだ。
「クソ野郎……クソが……」
あいつを侮蔑だと?随分上等な生き方をしてるじゃないか……!
しかし同時に諦めてもいた。いま一時感情を揺さぶられたところで、自分が仕事を探し始める図が、今の僕には思い浮かばないのだ。
結局他人に難癖をつけながら、自分では何もしない……。
いつの間にか夕暮れに染まっている道を歩きながら、僕は泣いた。情けない?遣る瀬無い?
熱い石を飲み込んだようなわだかまりを胸に、僕は歩いた。全力で自分を否定しようとする己を抑えて歩いた。
僕は、少しでもましな人間になりたい。
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