フライングキス 【祐太編】

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**** 中井から聞いたところによると、噂は先週の 火曜日、生徒会室で泉が、あのイケメンの 副会長と抱き合っているところを、偶然 入ってきた三年生の女子が目撃したと いうもの。 角度的にはっきりとしないが、二人は キスしているように見えたらしい。 中井はたまたま親しい女子から聞いたそうで、 俺達がいつもと変わらない態度だったから、 何もかも承知しているのだと思っていた。 だから噂のことを、俺に言わなかったのだと。 すっかり日の落ちた、家までの道をとぼとぼと 歩きながら、俺は何度もため息を吐く。 なんだかんだと自分に言い訳している間に、俺は 大事な女の子をかっ(さら)われてしまったみたいだ。 こんなことになるなら、今までの関係が壊れても、 気持ちを告げれば良かった。 それなら失恋しても、後悔だけはなかったのに。 そして同時に、彼氏ができたことを内緒に されたことにかなりのショックを受けた。 俺は兄貴分として、信頼されて いなかったということに。 ぼうっと歩いているうちに、いつもは避けて いる通りに入っているのに気づく。 泉が越してきてすぐの頃、この通りで 大型犬に襲われたことがあって、それ以来 ここは避けて通るようになっていた。 今思えば、それも懐かしい思い出だ。
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