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中井から聞いたところによると、噂は先週の
火曜日、生徒会室で泉が、あのイケメンの
副会長と抱き合っているところを、偶然
入ってきた三年生の女子が目撃したと
いうもの。
角度的にはっきりとしないが、二人は
キスしているように見えたらしい。
中井はたまたま親しい女子から聞いたそうで、
俺達がいつもと変わらない態度だったから、
何もかも承知しているのだと思っていた。
だから噂のことを、俺に言わなかったのだと。
すっかり日の落ちた、家までの道をとぼとぼと
歩きながら、俺は何度もため息を吐く。
なんだかんだと自分に言い訳している間に、俺は
大事な女の子をかっ攫われてしまったみたいだ。
こんなことになるなら、今までの関係が壊れても、
気持ちを告げれば良かった。
それなら失恋しても、後悔だけはなかったのに。
そして同時に、彼氏ができたことを内緒に
されたことにかなりのショックを受けた。
俺は兄貴分として、信頼されて
いなかったということに。
ぼうっと歩いているうちに、いつもは避けて
いる通りに入っているのに気づく。
泉が越してきてすぐの頃、この通りで
大型犬に襲われたことがあって、それ以来
ここは避けて通るようになっていた。
今思えば、それも懐かしい思い出だ。
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