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「あたし……、あたしも裕ちゃんが好き!」
「は……。泉、なに言って……。だっておまえ、
この人と付き合っているんじゃ……」
ぎゅっと胸に抱きつく泉から、思いもしない
言葉が飛び出し、俺の視線は副会長と
泉の間を行き来する。
「いろいろと誤解があるようだけど、彼女の
言っていることは本心だと思うよ。面白いものを
見せてもらったけど、これ以上は野暮だな。
僕は遠慮しよう。井上さん、おめでとう。それじゃ」
「先輩、ありがとうございました!」
クスクスと笑いながら、颯爽と出て行く
副会長の背中に、泉が礼を言っている。
ますますわけがわからない俺は、二人の
やり取りを、ただ呆然と聞いていた。
「あの噂はね、誤解なの」
ようやく落ち着きを取り戻した俺に、泉が
顛末を語る。
さっきからぴったりと俺にくっついたまま
だけど、それはまあ、気にしないことにしよう。
「この部屋、床に物がいっぱいでしょ。
躓いて転びそうになったあたしを、
先輩が抱き留めてくれて──」
それを三年の女子に見られた。
そして、噂が広まるうちに、尾ひれがついて
キスしていたことになった、ということか。
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