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『ゆうたおにいちゃん、なかよくしようね』
俺達が出会ったあの日───
舌っ足らずな言葉で、あいつは俺に
そう言った。
はにかんだ笑顔を浮かべて手を差し出した
その子は、今まで出会った女の子の中で
一番可愛いと思った。
思えば、その想いは、俺にとって初恋と
言えるものだったのかも知れない。
****
期末テストも終り、一学期も残すところあと一週間。
来る夏休みを前に、俺はあることで悩んでいた。
これは今に始まった悩みじゃないけれど、
いい加減にどうにかしたいと思うのが正直な
気持ちだ。
けれどもこの数ヶ月、なんの行動にも
踏み出せないまま、ただ月日だけが過ぎている。
俺って案外ヘタレだったんだなと、情けなさを
実感する今日この頃だ。
「泉、帰るぞ!」
「裕ちゃん、ちょっと待って」
一年生のクラスが並ぶ校舎の四階。
去年まで自分自身の使っていた教室のドアから
顔を覗かせると、通学鞄ともう一つ、重そうな
トートバッグを下げた泉が、よろめきながら
歩いてくる。
俺を裕ちゃんと呼ぶ彼女の名は、井上泉。
俺達はいわゆる幼馴染みという関係で、
五歳の時に、泉の一家が隣の家に引っ越して
きた時から俺達はいつも一緒で、彼女は
妹のような存在だ。
この泉に関することこそが、今の俺の
最大の悩みだった。
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