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夏の夜に月を堕とす。
午後十時四七分の学校は、しんと静まり返っていた。
プールの水面では、時折目に見えない何かが小さな波紋をたてていた。
「虫取り網、持ってきた?」
イタズラっぽくにかりと笑う君は、緑色のフェンスにもたれかかって、二人分の影を背負っていた。
「ばっちり、今日はいける気がする」
「この間もそんな風に言ったじゃあないか」
空にはカスタードクリームのような、のっぺりとした満月が吊るされていて、さわさわと光る星たちに唆されて今にも落ちてきてしまうかのように思われた。
「僕の自由研究にはどうしても、あの月が必要なんだ」
「あぁ、だからこうしてぼくたち、今年もやってきたんじゃないか」
「君もたいがい物好きだね」
「飽きもせずに付き合っている、友人思いだと言ってほしいね」
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