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それじゃあ、はじめようか。
夜の学校、プールに忍び込む、それだけでなんだか大人になれるような気がして、
けれどその階段はひとつ踏み外せば、もう二度と戻れないような気がして。
僕が虫取り網でそっと水面を掬い上げると、そこにある月は乱れて散って、逃げてしまった。
「今年も駄目そうかい」
「今年こそはと、思ったのだけれど」
僕が、網をプールサイドへと引き上げると、彼は慎重に足をプールの中へと入れた。
まるで、ある一点に神経を集中させれば水面に立てるかのようだった。
しばらくすると、彼は大の字になって水面にかぷりと浮いた。
そのまま、時折手足をすいすいと動かして空を見上げている。あめんぼみたいだ。
僕もそれにならって、ゆっくりと水面に浮かんだ。
「僕たちあめんぼみたいだ」
「けれど、ぼくたちあめんぼではないじゃないか。………みんな、みんな」
耳元で水がたぷたぷと音を立てていて、彼の言葉がよく聞こえなかった。
「駄目だ、君。水の音でちっとも聞こえやしないんだもの」
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