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麗子がいなくなったときのことは――まあ隠し立てしてもはじまらない――悲しいという気持ちはまったく湧いてこなかったのが本当のところさ。
もっと言おうか。正直にいってすごくすっきりしたよ。
心の大部分を占めていた暗闇が、まるで清涼感あふれる風で吹き飛んだようにな。
ウソをついたってはじまらない。
俺と彼女が離婚のチキンレースをやっていたのは、俺の同僚も知ってるし、彼女のママ友だって知ってる。
だから隠す事もないし、やましいことなんて何一つない。
不謹慎だって意見には納得するし、批判だって覚悟の上さ。俺たちは駄目な夫婦だった。
そいつに終止符をうってくれたんだ。
感謝してもしきれないよ。
え、何だって、彼の奥さんも行方不明?
そいつはお気の毒だが、俺に何の関係があるのさ?
彼の愚痴はよく聞いていたよ。彼がどれだけ奥さんに苦しめられてきたか。
俺にはよく理解できる。俺も同じ重荷を背負ってきたからな。
でも彼が麗子を殺ってくれたからって、彼の荷物を降ろす手伝いをするわけがない。
常識的に考えてそうだろう?
だから、俺はやってないんだ、刑事さん。
俺にはアリバイがあるし、俺はシロだ。
なあ刑事さん、そうだろう。
――ウソをついたって、はじまらない。
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