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ゆめかうつつか
正直言えば、櫂の頭の中はパニックになっていた。
それもそのはずだ。櫂にとって真と2人きりの空間にこんなにも長い間いる事は想定外だったのだ。
その日も1日何事もなく終わると思っていた。朝起きて面倒臭いと思いながらも出勤して、店長にこき使われて掃除に接客。
アクセサリーの陳列だけは店長が丁寧にしているがそれ以外はこの店唯一のスタッフである櫂がこなしているのだ。
早く帰りたいとか思ってる日に限って店長が用事で外出。予約受け渡しがある為閉める訳にもいかない。
今日も1日が長いとかその時までは思っていたのだ。
だけどどうだ?
白銀真と話すだけで時間がどんどん過ぎていく。もっともっと話したい。そう思っていたけどタイムリミットはすぐそこだった。
「真〜すまんお待たせ!いやぁ彼女が次の休み行きたいとこあるから話聞けってさ〜」
外で電話をしていた真の友人が戻ってきた。
あぁ、これで終わってしまう。
もっと話したかった。何が好きとか、大学では何を学んでいるのかとか、アクセサリーに興味はあるのかとか、聞きたいことは山ほどあったのにそのほとんど聞くことが出来なかった。
内心、少しだけ真の友人を恨んだ櫂だったがこのチャンスをくれたのもその友人だった為そう思うと憎く思うこともなかった。
「電話長すぎ。高峯さんいなかったら先に帰ってるとこだったよ。」
「高峯さん?……えっ!?真この店員さん高峯さんって呼んでるの?!」
「え?そうだけど…」
「何故先越された!!俺のが常連なのにー!!俺も店員さんと仲良くなりたい!!」
「うるさいぞ理旺。高峯さん困ってるだろ。」
「いーや黙らないね!高峯さーん!俺も高峯さんって呼んでもいいですか?!」
真の友人、理旺(リオ)はオロオロしてる櫂に人懐っこく話しかける。
どうしていいか分からなかった櫂だが目をキラキラさせて手を差し出す理旺につられヘラりと笑い手を握り返した。
「俺、見た目怖いんで仲良くなりたいとか言われたの初めてですわ…」
「マジで?!俺なんか仲良くなりたくてソワソワしてたのによぉ〜」
「高峯さん怖いか?俺はそうは思わなかったけど…」
「なぁなぁ!それより高峯さんじゃなくて櫂って呼んでもいい??」
「は?」
「理旺。いきなり距離詰めすぎじゃないか?」
正直本当に櫂は戸惑っていた。
もちろん距離の詰め方にも驚いたが櫂にはまた違う別の新しい思いが渦巻いていた。
「や、いっすよ。櫂のが呼びやすいでしょうし。」
「ッしゃ!!やりィ!!」
そして結局、真の友人である優木理旺(ユウキ リオ)に押し負け櫂は連絡先諸々教えてしまったのだが、そこにはとんだ『嬉しい誤算』も同時に姿を現した。
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