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ある夏の日、給食を食べ終わるころ、学級委員のすずめちゃんが言った。
「もう少しでドッチボール大会があります。だから、昼休みに用事がない人は校庭に出て練習しましょう」
すずめちゃんの言葉にクラスのみんなは返事をしながら片付けをし始める。ぼくもつなげていた机をもどしているとすずめちゃんがぼくのところに来た。
「京くん、おねがいがあるんだけど」
大きなかわいい目で見つめられ、ぼくはドキドキする。
「どうしたの?」
「私、給食当番だから、ボール持っていっておいて」
ぼくがうなずくと彼女は笑顔になった。
「ありがとう。じゃあ、校庭で集合ね」
すずめちゃんがぼくに背をむける。そのとき、彼女の前髪についているピンが光った。羽根のかたちをして金属でできている。きれいだな。すずめちゃんがおかず用のバケツを持って教室を出るまで、ぼくは見つめていた。
早くボールを取りに行かなきゃ。ぼくは後ろのロッカーへ行き、道具入れからボールを取る。バレーボールくらいの大きさだけど、やわらかい。ケガしないようにこっちの方がいいかな。もう一つのボールと見くらべていると、横から腕がのびてきてボールをつかんだ。腕の主はけんやくんだった。
「何するんだ」
「何するって遊ぶに決まってるだろ」
けんやくんはぼくからボールを取り上げる。
「ちゃんと練習に参加しないとダメだよ」
「おれたちがいれば、ぜったい勝てるから練習なんていらないんだよ」
けんやくんの後ろから身体の大きなへいじくんがきた。
「すずめちゃんが『やろう』って言ってたじゃん」
「関係ねえよ。だいたいお前は堂本だから言うこと聞いてるんだろ」
へいじくんはぼくの顔に刺すように太い指をむける。それはぼくの心に刺さった気がした。かき消すようにぼくは首を振る。
「違うよ。すずめちゃんは学級委員だから」
「とか言って、ホントは堂本が好きなんだろ」
さらに太い指が心の奥深くに入っていった。それにたえられず声を上げる。
「とにかくボール返せよ」
ぼくはけんやくんに飛びかかった。ボールを取りあげようとすると、けんやくんは腕をあげてぼくがとどかない高さまで持ちあげる。ぼくは強引に取ろうとけんやくんのすぐ前に立ち、腕をのばした。
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