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 そのとき、ぼくはけんやくんにぶつかり、けんやくんはそのまま後ろへころんだ。たおれた音は人の多い教室ににぶく響いた。その音にみんなが反応してこっちを見る。みんなが集まる中、けんやくんはおき上がり、自分の背中をさすった。 「お前、いくらなんでもぶつかってくるなんて『ひとでなし』だぞ」  大丈夫と声をかける間もなく、へいじくんがさわぐ。みんなの冷たい視線がぼくにつきささった。たしかに、押したのはわるいと思うけど、そんなに強くやってない。それにじゃましてきたの、けんやくんなのに。 「そうだ。『ひとでなし』だ」  へいじくんと一緒にけんやくんもさわぎだす。ぼくがそこからはなれようとすると、さらに周りの男の子たちが行かせないように手をひろげた。早く行かないと、すずめちゃんを待たせているのに。 「じゃましないでよ。ボール持っていけないじゃん」 「なんだよ、人にぶつかっておいて逃げるつもりかよ」  もともとは、けんやくんが……。ぼくが言い返そうとした。しかし、みんなは手を叩きながらある言葉を繰り返す。 「ひとでなし、ひとでなし、ひとでなし」  変なリズムをつけながら、へいじくんたちが連呼し始めた。意味は分からないけど、すごくイヤな気持ちになる。ぼくは耳をふさぎ、窓際にさがっていった。でも、へいじくんたちは、僕をかこうように近づいてくる。言われているだけなのに、ぼくの息は上がっていき、頭がいたくなってきた。  ふと、背中に何かが当たり、振りむくとそれは窓枠についている柵だった。落ちないように取りつけられているのだが、端の方がすでにさびついている。とうとうぼくは追いつめられてしまった。へいじくんたちは、さらに言う速度を上げ、あせらせる。ぼくは窓から上半身を乗りだし、のがれようとした。その姿にへいじくんたちが笑う。 「そうやったって、ムダなんだよ。『ひとでなし』」  へいじくんが大きな手でぼくの胸を突き飛ばした。ぼくの身体はされるがまま柵によりかかる。すると、柵はさびた部分からゆがみ、ぼくはすべりおちた。手をのばす時間もなく、窓の外へなげだされる。
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