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 そのとき、突然落ちるスピードがおそくなった。窓から見えるへいじくんたちや空を飛ぶ鳥がスローモーションになっている。今のうちに、と手をのばしたが窓は遠くなっていった。息がつまり血の気が引いていく。やがて、見なれた校庭が逆さまにうつった。ぼくは頭から……。これから起きることへの恐怖から目を閉じる。風の音や子どもの遊び声の中、ぼくは落ちていった。  だが、ぶつかったのは柔らかいところだった。そして、もう一段階どこかにうつ伏せに落とされる。今度はすぐ地面にたどり着いた。  ゆっくりと目を開けると、ぼくは花だんの上に腹ばいになっていた。おき上がりながら身体をたしかめる。服に土が少しついているくらいでケガはなかった。痛いところもなかった。花だんの花もつぶれていない。ただ、ぼくの周りに黒や白、茶色の羽根が散らばっていた。  いったい何が起きたんだ。ぼくは自分が落ちた窓を見上げる。窓からへいじくんたちが顔を出して、ぼくを見下ろしていた。 「なんで生きてるんだ」 「やっぱり『ひとでなし』だったんだ」  へいじくんたちは、ぼくを見つめたあと、さけびながらにげるように教室へ引っこんでいく。  教室は4階だった、それなのにどうして生きているのだろう。ふと、へいじくんたちの言葉を思い出す。ひとでなし。ひと、で、なし……。そうか、ぼくが『ひとでなし』だからか。ぼくはひとではないから死ななかったんだ。そう考えているうちに、自分の身体を抜けていく風も服についた土のにおいも、まるで映像を見るように感覚が遠くなっていた。
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