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「落ち着いて、紗奈」
「!」
「ごめん……本当にごめん」
「ゃ」
「紗奈から逃げた俺を……許してくれ」
「~~~っ」
許さない
許さない
(絶対に許さない───!!)
──そう……思っていたのに
「紗奈」
「んっ」
頭に置かれた大きな掌が撫でるように動いて、そして仰け反った私の顔の、綺麗にリップが塗られた唇を彼が徐に食んだ。
「ふっ……ん」
「ん、んんっ」
押し付けられた唇はやがて深くなり、よく知った熱い感触が私の中で妖しく蠢いた。
「……紗奈」
「……」
不意に離れた彼の唇は私に塗られていたリップと同じ色を纏っていた。
(……酷い男)
彼の潤んだ瞳を見ると一気にあの頃の気持ちに引きずり込まれてしまう。
憎くて憎くて仕方がないのに。
殺してやりたいと───殺してその命を奪ってまでも私のものにしたいとさえ思っていた男だったのに……
(結局私はあの時と何も変わっていなかったんだわ)
今しがたまで抱いていた憎悪と嫌悪感は一気に忘れかけていた思慕の渦に呑み込まれてしまった──。
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