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「……ねぇ、お兄ちゃん」
「ん?」
「私を此処から……連れ出して」
「……」
「お兄ちゃんと一緒に……外国でふたり──……あっ」
一層奥深くを抉られた衝撃で言葉が途切れた。
「……ごめん」
「!」
「それは……出来ない」
「……」
擦り付けるように私の中を泳ぐ兄は私の思考を麻痺させるようにうねった。
「今、それが出来たら……あの時、そうしていた」
「……」
兄の言葉に絶望と共に諦めにも似た憔悴感が私の中に湧いた。
「これで……最後だから」
「……」
「俺はもう──紗奈の前には姿を現さないから」
「~~~っ」
私を官能の渦に引きずり込みながら淡々と語るその言葉は死刑判決を述べる裁判官のようだった。
(弁護士の癖に!)
酷い男だ。
私も酷い女だけれど、この男も大概酷い。
私を救ってくれない癖にこうやって私の前に現れて散々かき乱して行く。
6年かけて薄れた思慕はあっという間に元に戻ってしまった。
(これは罰なの?)
両親の死を蔑ろにして兄を禁断の行為へと導いてしまった私への。
私の元から逃げ出した智春の後を追うこともなくあっさり諦めてしまった私への。
他の男と永遠の愛を誓おうとしている私への。
──罰、なの?
(……私には何も分からない)
ただ揺さぶられるように抱かれる智春から今は逃げ出せないということだけは分かったのだった。
WEDDING TABOO(終)
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