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ふるえながら、さっきの丈一さんを思い出した。あたしをさがして見つけた、あの白っぽい目を思い出した。あたしのいったことばを、丈一さんはきっとはっきり聞いたはずだ。なのに、なのに、あたしは
「ソーニャ、ソーニャ」
顔を上げると、横のドアがあいて鴎さんが外にいた。
パトカーはもうことり荘の前にとまっていたから、びっくりした。雨はさっきよりずっと強い。
「手を出して」
っていわれたので出すと、ぽとん、ぽとんって白いつぶがふたつのっかった。
「それ飲んで今夜はぐっすりお休み。あんまりいろいろ考えすぎないで」
鴎さんって、あたしの考えてることがわかるみたいだ。
「大丈夫、一般的な睡眠導入剤だ。やばいやつじゃないから」
お礼をいおうとして、あたしはぞくぞくふるえだした。
そんなわけない。あたしの考えてることがぜんぶわかったなら、鴎さんはこんなにあたしに親切にするわけない。あたしのこと友だちっていったけど、鴎さんはそれよりずっとたくさん丈一さんの友だちなんだから。あたしなんかより、ずっとたくさん好きなんだから。
ふるえながら車をおりた。フードを下ろしてマスクをはずした。冷たい雨がしばしば顔にあたったけど、あたしはその千倍はいやな目にあったほうがいいって思った。
「風邪ひいちゃだめだぞ、ソーニャ」
鴎さんはあたしを雨のあたらないかいだんの下までひっぱった。
「君の見舞いにまでは行かないぞ」
あたしはなんとか笑おうとした。
「あたしえりすだよ。でもありがとう、鴎さん。すごく親切だね」
鴎さんはぼうしに指をやって、とびきりさわやかにけい礼をした。
「どういたしまして、えりす。今度おしっこ飲ませてね、ばいばい」
パトカーが暗い夜に消えてしまうまで、あたしは手をふった。
やっと鴎さん、ちゃんとあたしの名前をいってくれたなあ、でもおしっこはいやだなあって思ってるうちに、なんとかふるえるのがやんだ。
雨の音が屋根に当たってうるさい。
あたしはのろのろかいだんを上がった。一番おくのあたしのへやはドアがあけっぱなしで、そこからつけっぱなしのあかりが外までこぼれていた。
へやを出たときのことは思い出せなかった。きっとわすれちゃったんだ、ずいぶんあわててたもんなあ、電気代もったいなかったなあとか思って、げんかんに入ってくつをぬごうとした。
ぽとん、ぽとん。
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