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って立ち上がろうとしたので、あたしはびくっと後じさった。
鴎さんがすばやくふりかえって、女の人のかたをそっとおした。
「まあま、そういうのは落ち着いてからで……相川さんはこのまま、ここで待っていてください。すぐに、直接会えますよ」
― 相川さん。
ありったけのゆう気がけしとんで、ひざがすとんって落ちた。
女の人はいすにすわりなおしたけど、ふしぎそうな顔であたしを見た。
あたしは鴎さんに支えられて、やっと立っていた。
鴎さんは耳もとでささやいた。
「疲れただろ、帰ろうねソーニャ」
あたしはえりすだけど、おまわりさんのレインコートにしがみついて、何度もうなずいた。早く早くここ以外のどこかへ連れて行ってください、って思った。
鴎さんはあたしにパーカをきせてフードをかぶせてひもをきゅうとしめた。これ以上、この人に見られたらあたしがばらばらになるって、わかったんだろう。
鴎さんは女の人に向かって、
「どうぞ、お大事に」
っていって、おじぎをした。
女の人もおじぎをした。
女の子がひざから、ぽんととび下りた。あたしににこにこ手をふって、
「おねた、ばいばい」
っていった。あたしはちゃんとばいばいを返したかった。でも、こわくてこわくて体の力がみんなぬけちゃって、自分からは動けなかった。
「ばいばい」
かわりに鴎さんがいって女の子にけい礼した。
女の子はすごくよろこんで、かわいいけい礼をした。
お人形みたいになったあたしをおんぶして、鴎さんは病院から外へ出た。
「ごめんね」
パトカーにのってすぐ、鴎さんはいった。
「え、なんで」
ってあたしは聞いた。
「おれ、君に、とてつもないものを背負わせちゃった」
まじめな顔で、ゆっくり車を出した。
あたしはおしりをずらせて、ふかくざ席にもたれた。
やっぱり、鴎さんのいうことはよくわからない。だって、あたしはなんにもしょってない。でも、なにもいわないでまどの外を見た。ほかに考えることがいっぱいあったからだ。
一番に考えなくちゃいけないことは、あたしはひどいってことだ。あたしはあたしの考えたいことだけを考えて、大事なときに丈一さんをわすれた。そのことを思うと体じゅうがふるえて、あつくなって、くさい汗が出た。はずかしいでは足りない、こわいとかいたいとかのほうがぴったりする。
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