第1章

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 どんどんどん、  ドアをたたく音で目が覚めた。あたしはこたつでねていた。体が重くて、朝からずっとぐだぐだしていた。  どんどんどん、  さっきより強くたたかれて、あたしの体は固くなった。工場の人にとうとうへやをつきとめられたのかと思ったのだ。  でも、  「えりすさーん」  だれの声だかわかって、心のそこからほうっとした。  やっと起きていって、げんかんのドアをあけた。  やっぱり鴎さんだ。はあはあ息を切らして立っていた。  あたしはびくりとした。  さっきまで朝だと思ってたのに、外はまっ暗で雨がふっていた。それにもおどろいたけど、鴎さんのかっこうに一番おどろいた。白いレインコートをきて、見たことのあるぼうしをかぶっていた。あたしを見て、大きい白い息を吐いて笑った。  「よかった、いたあ。この時間だったらまだ工場だろうって思って行ったら、やめたって言われて、びっくりしたあ」  あたしはもう一度びくりとした。  鴎さんは丈一さんの友だちだ。もし、クビになった理由をいったら、きっと丈一さんに伝わっちゃう。だから、ほんとのことはいえない。でもあたしはばかだから、うまくうそなんかつけそうにない。  鴎さんは、クビになった理由をあたしに聞かなかった。それより大事なことがあるみたいで、きょろきょろへやの中を見まわした。  「テレビ……見てない、のね」  「うち、テレビ、ないの」  まだびくびくしながら、あたしは鴎さんの頭からつま先までを見た。  「鴎さん、それすごい、本物みたい」  「ああ?」  鴎さんはレインコートの前をあけて中を見せた。中身も本物そっくりだ。どこからかていき入れみたいなのを出して、ぱかっとひらいた。まじめな顔の鴎さんの写しんと金色のバッジが入っていた。  「本物みたいじゃなくて、本物だよ。だって僕、本物のおまわりさんだもん。かっこいいっしょ……じゃなくて、とにかく上になんか着な。パトカーのせてあげっから」  あたしはあわててへやの一番おくまで下がった。まどにせ中をつけていやいやって首をふった。  「つかまえにきたの? あたしをつかまえにきたの? あたしけいむ所に入るの?」  鴎さんはおでこをぽりぽりかいて、こまった顔になった。  「そんなことしない、君を捕まえたりしない。ひどいこともしない。誓うよ、だって、僕ら友だちじゃん」  「友だち?」  「そうさ、友だち」
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