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そこにいるのがほんとに丈一さんなのかわからないのだ。見えるのはほうたいや大きいばんそうこうばっか。大きいプラスチックのマスクをつけていたから、顔は片方の目しか出てなかった。手の甲やうでにはチューブが何本もつきささって青くなって、指の先には洗たくバサミみたいな機械がついていた。
あたしはぎくしゃくぎくしゃく進んでベッドの横まで来た。
よく見たら、まぶたの上に知ってるきずがある。指にいつもとおんなじにばんそうこうが巻いてある。丈一さんだ、って思った次に、あたしはしゃがみこんでいた。
かんごしさんが、
「手を握っても大丈夫ですよ。でも、揺すぶっちゃだめよ」
っていった。
「はい」
って口だけ動かして、あたしはチューブだらけの手をにぎった。
あったかい。
ごくっとつばを飲みこんで、声をふりしぼった。
「丈一さん……」
頭の中ががんがんしてわからなくなった。目の前がゆがんでくもった。
「好き」
いってしまったら、なみだもことばもぽろぽろこぼれてとめられなくなった。
「好き、あたしは丈一さんが好き、愛してる……だから一生そばにいる。丈一さんがやってほしいことなら、なんでもやる。だから生きて生きて生きて……」
泣きながらキスした。紙のマスクがプラスチックのマスクにくっついてがさがさ鳴っただけだったけど、キスのつもりだった。
「聞こえる? 返事して、ねえ」
あたしの泣き声しか聞こえない。
まわりは広くて人がいっぱいいるはずなのにすごくしずかだった。
あたしは両手で丈一さんの手をにぎりしめ、お祈りするみたいにおでこにあてた。目をとじてじっとする。
すごくしずか……しずかだ。
「あ」
あたしはぱっと目をあけた。動いた気がした。
かんごしさんがテレビみたいな機械にかけよった。
テレビの中では白い線がはねたり下がったりして、おかしなもようをかいている。
ぴくん、と、あたしはひざでとび上がった。今度ははっきり、指が動いた。
「丈一さん!」
目が、ほうたいにつつまれていないほうの目が、半分あいていた。白っぽい小さい黒目が動いて、はっきりあたしを見た。
そっと、目の下にさわった。
「丈一さん、わかる?」
丈一さんはゆっくり目をとじて、ぱっとあけた。あたしのことばが聞こえているんだ。
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