第1章

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 かんごしさんはあたしをどかして、丈一さんをいろいろさわったり見たりした。それからあたしに向いて、  「すごい、こんなことってホントにあるのね、先生を呼んできます」  っていって行ってしまった。  あたしは左右を見て、近くに人がいないのをかくにんしてから、丈一さんに近よった。マスクをはずして、そっと目の下にくちびるをあてた。  丈一さんはまたゆっくり目をとじて、ぱっとあけた。それからぴくぴくって二度指を動かした。  「すごい」  あたしは笑って、指にもうでにも目の下にもいっぱいキスした。  そのうちおくの大きいとびらがひらいて、何人も人がどやどや入って来たから、あたしはあわててマスクをつけなおした。  先頭は白い服をきてるからきっとお医者さんだ。さっきのかんごしさんが横にいて話をしながらこっちにやってくる。  なんとなくその後ろに目をやって、あたしのおなかにぼかんと穴があいた。  どんなふうに丈一さんの手をはなしたのか、まるで覚えていない。  あたしはよろよろガラスの仕切りの外に出た。ゆめの中みたいに足が重たい。となりにおんなじような仕切りがあって、中に入るとベッドがあって、だれもいなかった。あたしは空ベッドの下にもぐった。  そうしているうちに、さっきの人たちは丈一さんの仕切りの中に入った。ここから、上のほうだけ見える。どの人もマスクをつけて、白いぼうしをかぶっている。  でも、その中のひとりが、だれかだかすぐにわかった。その横顔から目がはなせない。こんなにきれいな目の人がほかにいるわけない。  あたしは心の中でさけんだ。  「譲次さん譲次さん譲次さん」
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