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「誰も居りはしないさ。機械が自動で船を動かしておる。」
長官が説明する。
「どういうこと?」
女は驚いて聞いた。今まではわざと声を変えていたのだろうか、素のその声にウタカは聞き覚えがある。
「私たちの祖先は、ここにある機械に命令を与えたのだ。もし、人類が住める星が見たかったとき、その星に着陸するようにと。」
長官は言う。
「では、私たちが目指す場所は、そもそも存在するかどうか分からないってこと?」
女は聞いた。ウタカは確信する。この声はサキだ。
「そうだ。誰にも分からない。私にも、この機械にも。何年かかるかも分からない航海だ。人類の遺伝子を新しい住処に届ける為には、人々に何も知らせず、辿り着くまで繁殖し、生命を繋いで貰わねばならないと祖先は考えたのだ。」
長官は諦めたように語る。
「それを知って、お前たちはどうする?」
唖然とするウタカのサキに、長官は改めて問うた。
宇宙船は何処も目指してはいないのだ。ウタカたちが生きる意味は、ただ命を繋いでいくこと。
それは簡単に受け入れられることではない。
しかし、ウタカとサキは知ってしまった。
「サキ...。」
ウタカはサキの肩を抱く。
ウタカには今できることはそれしかない。
サキもウタカの腰に手を回す。
それだけで、ウタカは良いと思った。ウタカにはサキがいる。それだけで良い。
いつか2人の子孫が新しい青い星に辿り着くことを夢見て、今を過ごすのだ。
ウタカとサキはその場で職を辞して、家へと歩いた...。
了
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