13人が本棚に入れています
本棚に追加
「地球って青いんだって。」
黒くて真っ直ぐな髪を揺らして、サキが言った。
1961年に人類で初めて宇宙遊泳を行ったというユーリ・ガガーリンの言葉をウタカは思い浮かべる。
ガガーリンはこうも言った。
”神はいなかった”
ウタカは鍬で芋畑を耕しながら、彼らにとって神とは何だったのだろうかと考える。
宇宙空間から箱庭を覗くみたいに、神様が地球を見下ろしているとでも思ったのだろうか。
「でも、どうして青いのかな?」
サキが汗を拭うと、また長い髪が揺れる。ウタカの短くてカールした髪型に対する当て付けだろうかと思うくらいに、彼女の髪はウタカの視線を惹きつけた。
サキはもう直ぐウタカの妻になる女性だ。ウタカがプロポーズをして、サキはそれを受け入れた。つい先日、政府もそれを認めたばかりだ。政府が民間人のすることに口を出すことは殆ど無かったが、人口の増減に関わることについては大いに干渉した。
特に厳しく制限されたのは、肌や瞳の色が全く同じ男女の婚姻だ。もちろん法律でもそれは明確に禁じられていたし、あるいは人々に受け継がれてきた慣習が法律以上にその行為を禁忌として扱う。
それまでの教育のせいか、ウタカ自身も同じ肌の色の女の子に惹かれることは決して無かった。
そういう意味では、肌も瞳も全く違うウタカとサキ の結婚は法律的にも慣習的にも、理想的と言って良いものだった。
地球にいた頃の人類はむしろ近い人種同士で結婚することが多かったというのだから、不思議なものだ。
「地球表面の70%は水だから。」
ウタカは作業を続けながら、サキに教える。
「水だとどうして青く見えるのかしら。水は透明よ。」
サキが呆れるように言った。水が青いなんて、サキには想像出来ないようだ。もちろん、ウタカだって、地球表面のの70%を占めていたという海を実際目にしたことは無かったのだから、信じられない気持ちは良く分かる。
「水は青く見える波長の光以外を吸収するらしいよ。もちろんそれは僅かな量で、コップの水くらいじゃ全く透明に見えるだろうけれど。海みたいに大量の水は青く見えるらしい。」
ウタカは本で読んだ通りに説明する。
「それなら、私たちが目指す星もきっと青いのね。」
サキは黒い瞳を輝かせて言う。ウタカは彼女の笑顔を見て、少し胸が痛くなる。
ウタカは疑っていた。
本当に”私たちが目指す星”など存在するのだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!