地球

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ウタカとサキが暮らしているのは、大きな宇宙船の中だ。ウタカもサキも、この宇宙船の中で生まれた。もちろん、彼らがこの宇宙船で生まれた最初の世代ではない。彼らの父も、祖父も、曽祖父も。ずっとずっと前の祖先の代から、この宇宙船の中で生命を繋いでいる。 政府によれば、彼らの祖先がこの宇宙船に乗り込んで地球を出発したのは、約500年前のことだ。 その公式的見解によれば、ウタカたちの祖先は彼らは冒険者だった。彼らはフロンティアを求めて宇宙へと旅に出たのだ。 地球自体の寿命は40億年以上残っている。しかし、運良く人類が40億年生き延びたとしても、その後は結局地球と共に滅びてしまうことは明白だった。 ガガーリンが言ったように、神はすぐ近所の宇宙にはいなかった。しかし、もっと遠い先の宇宙には存在するかも知れない。 だからこそ、冒険者たる祖先は宇宙へと希望を見出した。宇宙の果てに人類が生命を繋いで目指してきたものがあるのだと。 宇宙の果てにあるものは一体何なのか。 ある人は楽園だと言い、ある人は地獄だと言う。またある人は、地球のような人類の生存に適した星があるのだと言う者もあった。 目的地を楽園だと信じる人々の集団は、”シロ”と呼ばれた。彼らは自分たちこそが選ばれた民であり、楽園に辿り着く最後まで、選ばれた民として行動することを戒律とした。シロの人々の行動原理は善を積むことであり、楽園に辿り着く前に宇宙船の中で死んだ者を憐れみ、弔った。 目的地を地獄だと信じる人々の集団は、”クロ”と呼ばれる。彼らは自分たちを罪ある人間と見做す。彼らは地獄に辿り着く最後まで、その罪を贖うことを戒律とした。クロの人々の行動原理はやはり善行を積んで許しを乞うことであり、地獄にたどり着けずに死んだ者を”シロ'たちと同じように憐れみ、弔う。
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