シロとクロ

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「諸君はこの宇宙船の中枢に入ることとなる。諸君の命を捧げて、それぞれに与えられる職務を全うして欲しい。」 内扉庁の長官が新入職員に訓示をする。 ウタカは試験をパスして、遂に内扉庁に入ったのだ。 そこはかつてウタカが睨みつけた鉄扉の中だ。内部はウタカがかつて見たことのないような機械的なつくりになっている。 床と壁は全て白で、どこも同じように見える。ガラスは透き通っていて、扉の外部の世界には無い技術で作られていることが分かる。 ウタカたち新入職員5名がそれぞれ長官と握手をする。 長官は色白の彫りが深い顔立ちで、室内にも関わらずサングラスを掛けている。 ウタカは新入職員の中で唯一の女性と目が合う。彼女の名前をウタカは知らない。しかし、華奢な身体に浅黒い肌の色、そして美しい瞳がたちまちウタカを惹きつける。 ウタカは何故か恐ろしくなった。同期とは言え、互いのことを全くと言って良いほど知らない。5人の任務はそれぞれ異なるらしいから、知る必要もないということだろうか。それだけで、内扉庁の秘密主義的な空気を感じる。 退屈な訓示を聴き終えて、新入職員は別々の部屋に移される。そこで職務の内容を聞くことになるらしい。 訓示を受けた部屋とそう変わらない白い部屋で、ウタカは上司と相対する。ウタカの上司は金髪の女性で、スタイルが良かった。 「私の名前はエマです。あなたの名前はエルです。」 上司のエマが当たり前のように言う。 「私はウタカです。エルではありません。」 ウタカは訂正した。 「分かっています。ですが、ここではエルと名乗りなさい。」 コードネームのようなものだろうとウタカは納得して、エルという名前を自分につけることにした。 「かしこまりました。それで、私の職務は何なのでしょうか?」 ウタカは聞いた。出来ることならこの宇宙船の秘密を握る操舵室での勤務を望む。宇宙船が何処かに向かっている以上、それを操るコクピットがあるはずだのウタカは考える。 「よろしい。エルに与える職務は、危険な宗教団体の監視と解散工作です。」 エマは冷たく言い放つ。ウタカは思惑通りにいかず落胆するが、ともかく職務の内容を良く理解して、全うしなければならないと頭を切り替える。 一つ一つ、仕事をこなして出世すれば、自ずと機密情報へアクセスするチャンスも訪れるだろう。 「危険な宗教団体とは、シロでしょうか。あるいはクロでしょうか。」
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