シロとクロ

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ウタカは聞く。監視と解散工作ということは、組織の内部に潜り込んで情報を流し、最終的に組織内部から瓦解させるというのがウタカのミッションだろうと想像する。 「今回はクロだ。彼らはある兵器を密造している可能性があるという情報がある。組織の内部に潜り、その真偽を確かめるのが今回のミッションとなる。」 ここまでは想像通りだとウタカは思った。 「その兵器とは...?」 ウタカが聞くと、エマは無表情のまま懐に手を入れる。ウタカは思わず身構えた。 「見てみろ。拳銃と呼ばれる武器だ。」 エマは取り出した鉄の塊をウタカに差し出す。手で持つと思われる形状の部分を手のひらで包み、筒になっている部分を前に向ける。 「握り方は間違っていない。輪っかの部分の引き金を引くと、筒の先から鉄の弾が飛び出す仕組みだ。弾は既に装填してある。撃ってみろ。」 エマが使い方を説明する。ウタカはそっと引き金に人差し指を当てて、白い壁に拳銃を向ける。 引き金を引くと、手に物凄い振動が伝わって、弾が飛び出した。壁には大きく穴が開いて、その真ん中に黄金色の弾がめり込んでいる。 ウタカはこんな物が存在することに、只々驚く。拳銃をクロが密かに造っているのだとしたら、確かに危険な状況には違いない。 ウタカの知るところによると、クロの幹部がシロの過激派に殺害されて以来、クロの若手メンバーが過激化し、既にクロは内部分裂状態だと言う。若手メンバーで作るクロ・ヌーボーは、クロの考える地獄思想を基礎にして、その地獄から逃れることを救済とし、その救済は死によってもたらされるという危険な宗派に変容しているという。 ウタカは拳銃を一丁携えて、クロ・ヌーボーに潜り込む。 彼らの根城は宇宙船の片隅の寂れた街中にあった。 天まで高く居住スペースが重なり合い、信じられない程の人数が集まって生活しているようだ。 「お前、何者だ。」 強面で体格の大きい警備隊がウタカを呼び止める。 「あの...、クロに入れてもらえないかと...。」 ウタカは潜入の為に、アオの貧しい人々の姿に身をやつして来た。過激派のクロに入るような人生に幻滅した若者を装うためだ。 「入会希望者か。良いだろう。ついて来なさい。」 警備隊の男はウタカを建物の中の一室に連れて行く。その部屋は薄暗くて狭い場所だった。 ウタカは椅子に座らさせられる。女が部屋に入ってくる。
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