last chapter 愛スル者ヘ

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「なにゆえ殿がそのような因果を背負わねばならなかったのですか!」 井伊家家臣、中野直之は南渓和尚の胸倉を掴み激しく揺さぶった。酒臭い息を吐きながら無精髭を生やした和尚は直之に揺さぶられるままになっていた。 「そなたの気持ちは分かるが・・・これはもう、どうもできぬのだ。」 南渓は直之が落ち着くのを見計らって口を開いた。重苦しい声で直之に語りかけたが、そんな諦めの言葉など聞きたくはなかった。 「なにゆえ・・・なにゆえ殿が・・・」 井伊家の後を継ぐ者が、みな戦でいなくなってしまった時、苦肉の策として、出家をしていた井伊の総領娘である千代を後見に立てた。 自身も戦で父を亡くし、跡目をついで間もなかった直之は猛烈に反対した。 「か弱い女に何ができる!」と、千代に噛みつき、「女のくせに」と抗った。 だが民のために一生懸命に駆けずり回る姿を見てなのか、それとも陽だまりの笑顔を向けられてしまったからなのか、いつからか側にいたいと思うようになった。 この女子(おなご)を支えたい。身を挺して守りたい、そう思ってしまったのだ。 もちろん、井伊家家臣中野直之として。 その時から直虎は直之にとって特別な女子になった。 恋ではない。 そんな軽いものとは比べ物にはならぬ。 もっと崇高で純粋な気持ちだった。 「ならば、それがしが殿をお助けするまでだ。」 己の迷いを断ち切るように叫んだ。 それが己の役目なのだ。 その役目を全うせねば殿に叱られてしまう。 「直之しっかりせよ!」 そんな激が飛んでくるのを期待してしまう自分が情けない。 半身を切り裂かれるような、 激しい痛みが直之の胸を抉った。 あの大きく澄んだ瞳を守りたかった。 胸にこみあげる想いを押し込め、 あの場所に駆け出した。 きっと、あの(ひと)は、そこにいる。 そう確信していた。 あの男の命を奪った場所へ。
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