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「間に合わなんだか・・・」
南渓は夜更けに慌ただしく動き出した不穏な空気を察して、嘆いた。
やはり、あの言い伝えの通りになってしまった。
その道を避けるために多くの犠牲を払ってきたのに。
多くの命を捧げてきたのだ、上手く行ってもらわねば、あの者たちに申し訳が立たぬ。
あ奴にも・・・
「千代を頼みます。」
たった一言だった。
もっと言うべき事があるだろうと思ったが、多くを語らぬ事が、それ以上の何かを語っているように思えた。
「相分かった。」
まるで、その者の為に命を捧げることがこの上なく幸せであるという顔をしていた。
最期は穏やかに微笑んだ。
長らく忘れていた。
この子がどんなに心優しい子であったのか。
優しくて我慢強くて、そして誰よりも千代を大切に想っていたのかを。
それを思うと、急に怒りが沸き上がった。
馬鹿者が!
そんなに助けたければ、自分の手で助ければよかったものの。何故、儂らに託したのだ。
馬鹿者がっ・・・
年のせいで緩くなった涙腺が涙を溢れさせた。
幼いふたりの顔を思い出し、掻き毟りたほどのもどかしさが南渓の胸に残った。
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