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それは唐突に訪れた。
井伊家がお取潰しとなり、
井伊家そのものが無くなった。
その後、今川からのお下知により、
井伊の領地は近藤に任された。
それから数日が経ち、質素だが格式高そうな造りの屋敷にも慣れた頃、普段のように早めに夕餉をすまし、床についた。
床について、どれぐらい経っただろうか。
騒がしく屋敷中で走り回る足音と戸惑う家人たちの悲鳴が入り混じった頃、それは現れた。
最初は武田からの夜襲かと思い、飛び起きた。
枕元にあった刀を手に取り抜こうとしたところに、その女が現れたのだ。
ほんの一瞬だった。
一度パチリと瞬きをして、次の瞬間目を開けると先ほどいた場所から女は消え、自分の首に手をかけ締めあげていた。
「っうぐ・・・」
喉を潰され声どころか、呼吸すらできなかった。
ただ自分よりもはるかに華奢な女の手で喉を締めあげられていた。
本当に何の音も、気配さえもしなかった。
ただ気が付いた時には、そこにいた。
この闇夜に溶けるような漆黒の黒髪を揺らしながら、近藤の首を絞め続けていた。
今まで幾度も会う機会があったのに、
一度も向けられたこともないほどの穏やかな微笑みが向けられていた。
やはりこの屋敷はこの女によく似合う。
自分の方が異物なのだと思った。
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