last chapter 愛スル者ヘ

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千代は、もう二度と聞くことのできなくなった優しい声を思い出し、子どものように泣いた。胸のいっぱいに溢れた愛おしさを抱きしめながら、拭っても次から次へと溢れてくる涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら大声で泣いた。 幼馴染であり、 家臣であり、 この世で一番愛しい男だった。 「政次・・・    会いたい。  今、そなたに会いたくてたまらぬ。」 だが、その願いは二度と叶わない。 あの澱んだ蟹淵で磔にされ、その胸を突き刺し息の根を止めたのは近藤ではない。千代自身だったのだから。 この手で、 この世で一番愛しい男を殺したのだ。 洗っても染み込んでしまった血の匂いと、臓腑を切り裂いた時の何とも言えない不快な感触を思い出した。 寒くもないのに震える指先を握り締めながら、人の命を奪うことがどれだけ重く尊い物なのかを思い知ったのだった。
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