last chapter 愛スル者ヘ

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「もう、この空は飛べぬ。我ひとりでは・・・。」 手中に収められている、 小さな碁石を見つめ、呟いた。 「我もそなたの元に行きたい。  と云うたら、そなたに叱られてしまうな。  だが、もう駄目じゃ。  これ以上は耐えられそうもない・・・  政次・・・今、我も参る。」 月夜にギラリと鋭い光を反射した。 その切っ先を喉元に当てた。 覚悟はできていた。 政次を失ってから、躰中が穴だらけだった。 いろんな感情がその穴から零れ落ちてゆく。 生きている心地などしなかった。 じりじりと身を焼かれているような心地がして、 夜もろくに眠れなかった。 食事も喉を通らず、ますます身と心が削られていった。 和尚様も、昊天さんも、傑山さんも、「飯を食って寝ればよい」と言うてくれるがそうすることすら、政次に申し訳がないと思ってしまう。この温かな血潮が躰を巡っていることすら、申し訳がないように思えてくる。 そうして、朦朧としてきた頃、 ついに息をしていることすら申し訳なく思うようになった。 だから、もうよいのだ。 我もそちらに行かせてくれ。 千代は心の奥深くに抑え込んでいた想いを解き放った。 その瞬間、 突如、躰中の血が沸騰したような熱さが全身に駆け巡った。 「あぁぁぁぁっ!」 ついに千代の恐れていた瞬間が訪れた。 覚醒の始まりだった。
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