18人が本棚に入れています
本棚に追加
「もう、この空は飛べぬ。我ひとりでは・・・。」
手中に収められている、
小さな碁石を見つめ、呟いた。
「我もそなたの元に行きたい。
と云うたら、そなたに叱られてしまうな。
だが、もう駄目じゃ。
これ以上は耐えられそうもない・・・
政次・・・今、我も参る。」
月夜にギラリと鋭い光を反射した。
その切っ先を喉元に当てた。
覚悟はできていた。
政次を失ってから、躰中が穴だらけだった。
いろんな感情がその穴から零れ落ちてゆく。
生きている心地などしなかった。
じりじりと身を焼かれているような心地がして、
夜もろくに眠れなかった。
食事も喉を通らず、ますます身と心が削られていった。
和尚様も、昊天さんも、傑山さんも、「飯を食って寝ればよい」と言うてくれるがそうすることすら、政次に申し訳がないと思ってしまう。この温かな血潮が躰を巡っていることすら、申し訳がないように思えてくる。
そうして、朦朧としてきた頃、
ついに息をしていることすら申し訳なく思うようになった。
だから、もうよいのだ。
我もそちらに行かせてくれ。
千代は心の奥深くに抑え込んでいた想いを解き放った。
その瞬間、
突如、躰中の血が沸騰したような熱さが全身に駆け巡った。
「あぁぁぁぁっ!」
ついに千代の恐れていた瞬間が訪れた。
覚醒の始まりだった。
最初のコメントを投稿しよう!