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「政次、た、すけ・・・て」
混濁する意識の中で無意識に愛しい男に助けを請うていた。
だがもう、その人はいない。
やるせない想いに包まれながら、
深くて昏い闇の中に、
千代はその意識ごと飲み込まれていった。
ドクン!
胸の鼓動が頭に響く。
ドクン!
心臓が飛び出るかと思うほど大きく跳ねた後、
「己を解き放つがよい。」
地を這うような声が千代の頭の中に響き渡った。
その声の主に無理やり意識を奪われた。
「さて、そなたの愛しい男を奪ったあの男、穢れた魂でも喰らいに参ろうかの。」
その声は千代の声であったが、
いつもよりも艶があり、さらに冷酷な響きがある声であった。
千代であり千代でない、その妖鬼が
今、ここに覚醒した。
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