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ただ、人でなしの野蛮な獣であろうがなかろうが、今はそんなことはどうでも良かった。
父にとって実の息子ですら駒であるというのは既に分かっている。その駒使って何を獲りたいのかを知りたかった。大事な千代の人生が賭かっているからこそ。
「そのようなことはできませぬ。
お断り致します。」
生まれて初めて拒んだ。
慣れぬことをしたせいか喉が詰まり、掠れた声が震えた。
「できぬと?既に女子の躰は知っておろう?」
「はい。しかし、できませぬ。」
「できぬと?笑わせるな。何のために遊女を抱かせてやったと思うておる。」
「何のために?
元服の儀式だからではないのですか?」
「お前は総領娘の純潔を奪うのだ。床の上で恥をかかぬようにじゃ。下手じゃと噂を流されれば小野が笑われる。だから駿府でも評判の遊女を買ってやったのだ。」
「そのような・・・」
「当たり前の事じゃ。それに後で遊女に聞いたのだが、『ご子息様は床の上での女子の扱いにたけておられる。』と褒めておったぞ。じゃから、できぬはずがなかろう。」
「じゃから、気のすむまで犯してこい。」
獲物を捕らえた蛇のごとく鋭い眼をしたまま、厭らしく嗤った。
父の闇の深さは息子の自分にも計り知れないのだと悟った。到底共感できるものではなかった。
人でなし。
その躰には温かな血などながれてはいないのだろう。
虎狼の冷血じゃ。
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