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ドクドクと脈打つ鼓動を感じた。
この部屋に遊びに来ていた時と同じ場所に座らせ、千代から少し距離とって座った。
自分と距離を置かれる理由など想像もつかないのだろう。不思議そうに首を傾げた顔を千代だったが、政次は気づかぬふりをして用件を尋ねた。
「さて、このような夜更けに何用でございますか?」
「いや、あの。」
「お困りごとにございますか?」
「困っては、おらぬ、」
「左様にございますか。それではいかが致しましたか?」
「いや・・・」
歯切れが悪い。
一体何を言いたいのやらわからない。
「はぁ・・・」
政次は大きく溜息をついた。
「もう・・よろしゅうございます。」
「なにがじゃ?」
「時間の無駄かと。」
「む・・・」
「千代、俺に言いたいことがあるのだろう?」
「・・・・・・。」
千代は黙って俯いた。
千代が何か自分に伝えたい時、それが言いにくいことであればあるほどいつも回りくどくなってしまうのは幼いころから変わらない。
あえて幼馴染として尋ねた。
そして、沈黙の後に膝に置かれていた手がぎゅっとにぎった後、政次をじっと見据えた。
その瞬間、澄んだ瞳の中に血が滲んだように見えた。
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