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昊天は日増しに憔悴していく直虎を案じていた。
愛しい者の命を自らの手で奪わなければならなかった、その心情は昊天にも計り知れなかった。だからこそかける言葉も見つからず、慰めることもできなかった。
ただ、そっと見守るだけしかできぬことが、
何よりも苦しかった。
この数日間の直虎は何も口にしていない。
話すことも、眠ることもしなかった。
そして、泣くことさえしない。
ただ茫然と座したままの状態で、ただ息を吸っては吐いてをを繰り返していた。
それではまるで、美しい置物がただそこに置かれているようにしか見えなかった。
狂うてしまう方が、
ずっと楽になれただろうに。
直虎はそうする事もせず、
ただそこに座っていた。
それがかえって、
直虎自身を苦しめていると分かっていても、
どうにもならなかった。
ただ、
可哀想にと、
嘆くしかできないことが辛い。
あの陽だまりのような笑顔と、
キラキラと輝く瞳は、すっかり色を失い、生気すら失い、ただの黒い玉が覗いていいるだけになっていた。
胸が痛んだ。
誰も、あの男の代わりなどできぬのだから。
それだけは、皆分かっていた。
直虎にとって、
政次という存在はそれほど特別だったのだ。
幼い頃からずっと・・・
もしや、場合によっては自死を選ぶのではと恐れての、寝ずの番をしていた。
万が一のことを考え、あらゆる解毒剤と、治療に必要なものを備えていた。
大事な、あの娘を失いたくはない。
皆がそう思っているだろう。
たくさんの大切な命が奪われてきた中で、
それだけは何が何でも守りたかった。
直虎の、
次郎の兄弟子である私の大事な役目なのだ。
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